『チェンソーマン』の作者として知られる漫画家・藤本タツキの短編集『藤本タツキ短編集17-21』。
藤本タツキ短編集「17-21」
庭には二羽ニワトリがいた。
朝。目覚まし時計がなりひびく。ねむけまなこで起きたのは、男の子ではなく、まさかの宇宙人!?
学校の生徒たちも、顔が二つあったり、角が生えていたり。そして、ニワトリの飼育小屋で待っていたのは、着ぐるみを着た人間…。この作品は藤本さんが大学入学前、はじめてかいたマンガ作品。
もちろん、今とは比較にならないですが、はじめてにしてはうますぎます。筋肉の描写にはリアル感があり、吹き出しや効果線がさまざまに使われています。そして、ショッキングなストーリーとどんでん返し。藤本さんは最初から攻撃的な作風だったことがわかります。
この作品を書いた当時は東日本大震災で藤本さん自身の大学の入学が延期になったそうです。
今の若い世代は、震災やコロナなど、思いもよらない災難に見舞われてきました。凄惨な事件もたくさん起こりました。藤本さんの作品にも、突然の脅威がおそわれるシーンがたくさんあるように思います。それは、突然の脅威にも負けたくないという気持ちの裏返しではないでしょうか?
この短編集を読んでいると藤本さんがマンガをかくモチベーションのようなものが少しわかるような気がしてきます。
佐々木くんが銃弾止めた
かわいい女教師・川口先生を神とあがめる佐々木くん。
いつもどおりの授業中、突然、銃を持った男があらわれます。そして、佐々木くんが銃弾止めた。
言葉だけで説明するとそれだけのストーリーですが、絵の迫力でテンションをあげてくれます。突然の凶悪犯の登場。『ルックバック』と通じるものがありますよね。
ラブコメチックなところがありつつ、ぶっ飛んだ展開が藤本さんらしいです。
恋は盲目
生徒会長の伊吹は今日こそユリに告白すると決意した!
しかし、伊吹をさまざまな障害が待ち受けます。非常にシンプルなストーリーですが、待ち受ける障害がメチャクチャ!この短編にも凶悪犯が出てきます。
この作品はジャンプSQ.編集部から「16Pでできることを31Pでやっている」と指摘された逸話があります。短い物語を多くのページを使って表現する藤本さんのスタイルは、その後の作品でもうけつがれているのがおもしろいです。
シカク
天真爛漫ながら天才殺し屋でもある少女・シカク。
そんな彼女の前に、殺しの依頼が舞い込みます。
「俺を殺してみろ」
頭にナイフを刺しても、頭を吹っ飛ばしても死なない男・ユゲル。二人の出会いが化学反応を起こします。
構図や女の子の見せ方などが進化していることがわかります。
終わりに
漫画家を目指す女の子を主人公にした『ルックバック』が漫画家としての過去を振り返る自伝的な物語だったのに対し、作者が年齢がタイトルとなっている短編集は、藤本タツキの今までの道のりを振り返るものとなっており、『17-21』を読むと、彼が漫画家としてどのようなテーマと向き合ってきたのかがよくわかる。チェンソーマンがアニメ化され今後爆裂に上昇を生む。期待しかない。